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漫画の会話・相談場面はインタビューをもとにした再構成です。4つの事例は益子が見聞きした匿名の事例であり、北条送運の所属ドライバーの出来事や、すべて同じ会社で起きた出来事を示すものではありません。運賃だけが整備不足や資金不足の原因とは限らず、事業者・ドライバー自身の管理責任もあります。

はじめに|運賃が上がるのは、荷主企業様にとって負担では?

運送会社から「運賃を上げてほしい」と言われたら、荷主企業様はどう感じるでしょうか。

「こちらのコストが増えるだけではないか」

そう考えるのは、ごく自然なことだと思います。

実際、運賃が上がれば、物流にかかる費用は増えます。

しかし、その費用を単なる「経費」として見るか、将来にわたって荷物を運び続けるための「投資」として見るかによって、意味は変わってきます。

今回は、北条送運合同会社の代表・益子に、軽貨物運送の現場で起きている問題と、適正な運賃について話を聞きました。

1. 運賃を投資だと考える理由

――益子さん、運賃は経費ではなく投資だというのは、どういう意味でしょうか?

益子:

「荷主企業様の立場からすれば、運賃が上がること自体はコスト増ですよね。それは間違いありません」

――それでも、投資だと考えているんですね。

益子:

「そうです。運送会社が品質を維持しながら事業を続けるためには、適切なお金が必要なんです」

車両を整備する。

必要な装備をそろえる。

安全に運行する。

ドライバーが仕事を続けられる環境を維持する。

運送会社が当たり前のように提供しているサービスも、決して無料で成り立っているわけではありません。

益子:

「きちんとした運賃をいただくことで、運送会社は品質を担保しながら事業を維持できます。それは最終的に荷主企業様にも返ってくるんですよ」

運賃は、目の前の荷物を一度運ぶためだけのお金ではありません。

次の配送も、その次の配送も、安心して依頼できる環境を維持するためのお金でもある。

それが、益子の考える「運賃への投資」です。

2. 安い運賃が続くと、現場で何が起きるのか

――運賃が安いことは、荷主企業様にとって良いことのようにも思えます。何が問題になるのでしょうか?

益子:

「運賃が低い状態が続くと、現場で必要なお金まで確保できなくなることがあるんです」

ここからは、益子が見聞きしてきた軽貨物運送の現場の話です。

すべてのドライバーや運送会社に当てはまるわけではありません。

しかし、運賃と配送品質の関係を考えるうえで、見過ごせない事例です。

3. 事例①|2月の大雪で、車が出せない

――まずは、どんな問題があるのでしょうか?

益子:

「例えば、冬のタイヤですね」

東京や神奈川の平野部では、冬の間ずっと雪が降るわけではありません。

12月、1月は大きな積雪がなく、普段どおり配送できる日も多くあります。

しかし、2月に突然まとまった雪が降ることがあります。

益子:

「冬に必要なタイヤを準備するお金がなくて、ノーマルタイヤのまま過ごしているドライバーがいるんです」

――そこで大雪が降ったら……。

益子:

「家から出発できないんですよ。『今日は仕事に行けません』となってしまう」

積雪や路面凍結がある道路を、不適切な装備で走るべきではありません。

本当の問題は、雪が降ったことではなく、必要な備えができていなかったことです。

もちろん、運賃が高ければ必ず冬用タイヤを装着するとは限りません。適切な車両管理は、事業者やドライバー自身の責任でもあります。

それでも、必要な装備の費用を確保できないほど収益が厳しければ、安全な運行体制を維持することは難しくなります。

そして、その影響を受けるのは、荷物を待っている荷主企業様です。

4. 事例②|「今日のガソリン代がありません」

――ほかには、どんなことが起きていますか?

益子:

「信じられないかもしれませんが、『今日のガソリン代がないので出勤できません』という話もあるんですよ」

配送に必要な燃料を購入できない。

そのために車を動かせない。

荷主企業様からすれば、想像しにくい理由かもしれません。

しかし、運賃収入から燃料代、車両維持費、保険料などを支払った後、十分な資金が残らない状態が続けば、こうした問題も起こり得ます。

もちろん、売上があっても日々の資金管理ができていなければ、同じ問題は起こります。

運賃だけが原因ではありません。

ただ、必要な経費を賄えない水準の運賃が続けば、事業を安定して継続することは難しくなるでしょう。

荷物を運ぶために必要な燃料すら用意できない。

そんな状況が、配送の現場で起こっているのです。

5. 事例③|エンジンオイルが入っていなかった

――車両整備についてはどうでしょうか?

益子:

「1万キロ以上、エンジンオイルを交換していなかったドライバーがいたんですよ」

その車両は、車検のタイミングで整備工場に持ち込まれました。

そこで整備担当者から、驚くべきことを告げられたといいます。

「エンジンオイルが全く入っていなかったよ」

益子:

「焼き付く寸前だったんです。たまたま車検で見つかったからよかったですけど、走行中に止まっていてもおかしくなかったですよね」

エンジンオイルは、エンジン内部の摩耗や焼き付きを防ぐために欠かせないものです。

交換や点検を怠れば、重大な故障につながることがあります。

仮に配送中にエンジンが故障すれば、その日の荷物を予定どおり届けられなくなるかもしれません。

――車の整備ができていないことは、そのまま配送のリスクになるんですね。

益子:

「そうなんです。だから、運賃の話は単に金額だけの話じゃないんですよ」

6. 事例④|良いドライバーから先に辞めていく

――こうした問題の中で、特に深刻だと感じることはありますか?

益子:

「良いドライバーから先に辞めていくことですね」

これは車両の問題ではなく、人の問題です。

運送の仕事を続けるためには、運賃収入と必要経費の関係を理解する必要があります。

車両費、燃料費、整備費、保険料、税金。

そうした原価をきちんと計算できるドライバーほど、採算の合わない仕事を続けることの難しさに気づきやすい場合があります。

益子:

「原価をちゃんと計算できる人ほど、『この運賃では続けられない』と早く気づいてしまうんです」

――その結果、仕事を辞めてしまう。

益子:

「そうです。しかも、軽貨物の仕事そのものから離れてしまう人もいるんですよ」

経験や技能を持つドライバーが業界から離れれば、その人が担っていた配送能力も失われます。

新しい人を確保すれば、すべて解決するとは限りません。

安全に運転できること。

荷物を適切に扱えること。

納品先のルールを理解していること。

荷主企業様と円滑にやり取りできること。

そうした能力は、一日で身につくものではないからです。

安すぎる運賃が常態化すれば、良い人材が働き続けにくい環境をつくってしまうおそれがあります。

これは一社だけの問題ではなく、業界全体の持続可能性にも関わる問題です。

7. 安さの代償は、荷主企業様にも返ってくる

――ここまでの話を聞くと、安い運賃には別のリスクもあるということですね。

益子:

「そうですね。荷主企業様にとって一番困る日に、荷物が止まってしまう。それが怖いんです」

雪が降った日に、車が出せない。

燃料代を確保できず、出勤できない。

整備不足によって、車が故障する。

経験のあるドライバーが辞めてしまい、配送体制を維持できなくなる。

これらは、それぞれ別の原因で起きる問題です。

しかし、十分な原価を賄えない運賃が続くことは、こうしたリスクを高める要因の一つになり得ます。

荷主企業様にとって重要なのは、今日の配送費用だけではありません。

来月も、来年も、必要なときに荷物を運んでもらえること。

その安心を維持するためには、運送会社やドライバーが安全に事業を続けられる環境が必要です。

8. 国でも議論されている「適正原価」

――運賃の適正化については、国でも議論が進んでいますね。

益子:

「そうですね。私は軽貨物にも適正原価を導入すべきだと考えています」

2025年6月に成立したトラック運送事業に関する改正法では、運送事業の適正な原価を踏まえた制度整備が予定されています。

また、2026年10月19日の国土交通省の有識者検討会では、軽貨物運送への適正原価の設定も論点となりました。

ただし、制度の具体的な内容は検討段階にあり、軽貨物への適用が確定しているわけではありません。

※法制度の施行時期や軽貨物への適用範囲については、正式な公表資料に基づく確認が必要です。

益子:

「タイヤも、ガソリンも、オイルも、人も、維持できなくなるような運賃では、結局、荷物が運べなくなってしまうんですよ」

適正原価とは、運送会社の利益を無条件に保証するためのものではありません。

安全な運行や必要な車両維持、事業の継続にどの程度の費用が必要なのか。

それを考えるための重要な基準です。

北条送運では、適正な運賃の議論を、荷主企業様と運送会社が共に配送体制を守るための議論として捉えています。

9. 北条送運が考える「安全運行・高品質・高収益」

北条送運では、事業の価値を三つの段階で考えています。

安全運行・高品質・高収益。

まず、安全運行。

事故を起こさないことだけではありません。

配送ミスやクレームを防ぎ、約束した仕事を確実に遂行することも含まれます。

次に、高品質。

安全に運ぶという基礎の上に、荷主企業様から「また頼みたい」と感じていただける価値を積み重ねることです。

そして、高収益。

磨いた技能や知識、提供できるサービスの価値に見合った対価をいただくことです。

単に運賃を高く設定すればよいという考えではありません。

安全を守り、品質を高め、その価値に見合った対価をいただく。

そして得られた収益を、車両管理や人材、サービスの改善に生かしていく。

この循環があってこそ、長く続けられる運送事業になると考えています。

10. 運賃を払う側と、受け取る側ではなく

――最後に、荷主企業様へ伝えたいことをお願いします。

益子:

「運賃を払う側と、受け取る側に分かれて向き合うのではなくて、同じ課題を一緒に見ていきたいんですよ」

――同じ課題、というと?

益子:

「荷物をきちんと運び続けるには、どうすればいいかということです」

荷主企業様には、予算や事業上の事情があります。

運送会社にも、安全や品質を維持するために必要な原価があります。

どちらか一方の事情だけで、持続可能な配送体制をつくることは難しいでしょう。

だからこそ、運賃の金額だけでなく、その運賃によってどのような運行体制を維持できるのか、何を改善できるのかを、一緒に考えていくことが重要です。

おわりに|運賃は、荷物が運ばれ続ける未来への投資

運賃は、荷主企業様にとって費用です。

会計上の経費であることに変わりはありません。

しかし、経営上の意味としては、それだけではないと北条送運は考えています。

適切な整備を行い、安全に走れる車両を維持すること。

ドライバーが必要な準備を整え、安心して仕事を続けられること。

そして荷主企業様が、必要なときに荷物を任せられる環境を守ること。

そのために支払う運賃には、将来に向けた投資としての側面があります。

目先の安さだけではなく、荷物がきちんと運ばれ続けること。

そのための費用と価値について、荷主企業様と運送会社が同じ方向を向いて考えていければと思います。

北条送運合同会社
代表 益子智成

安全運行・高品質・高収益を大切に、荷主企業様の物流課題に向き合う軽貨物運送会社。

北条くんの日常|運賃と配送品質編・第1日目・完